DグレIris


 アイリス



 神田が風邪をひいたらしい。
 最近姿を見ないから、てっきり仕事なのかと思っていた。
 随分と熱が高いらしいけれど…神田は誰も部屋に入れようとしない。
 ラビですら、締め出された状態。
 彼はああ言ったけれど……。

「アレン、神田の様子、見ておいで」
「…はい?」
「アレンならたぶん大丈夫さ」
「何を根拠に……」
「根拠?」

 燃えるような夕焼け色の髪を揺らして、彼は朗らかに笑ったけれど…。

「アレンは神田のお気に入りだから」

 本当、何を根拠にそんなこと……。
 ラビって結構、いい加減な人なんだ。
 扉の前。同じような扉はいくつもあるのに、神田の部屋だけなんだか黒い。
 実際は黒くないけれど、黒いと感じてしまうほど、気が重い。
 入ったとたんに怒鳴られそう。
 ドアノブに手をかけて、立ち尽くす。
 片手には氷と薬の入った籠。
 それから、動けない。

―――神田は、僕のことを嫌ってる。

 だって、顔を見るだけで不機嫌そうにして。
 気が、重い。
「……。」
 でも、行かないと、神田は苦しんでる。神田がどれ程拒んでも、神田の身体は弱っているわけだから、放ってはおけない。
 虚ろな感じがした。
 ドアを開けた。
 細い隙間からは闇しか見えない。
 少し後悔しながら、勇気を出してみる。足を入れて、それに合わせて全体をドアの向こう側へ。
 予想通りに、
「勝手に入ってくるな!!」
 怒鳴られた。
 でも、苦しそう。
 力ない感じで、怒っているのはわかるけれど、それよりも先に苦しさが伝わってくる。
「……出て行け……」
 毛布の中で身じろぐ音がした。
 出て行けと言われたけれど、別にここにいても良さそう……。
「神田……」
「…なんだ、」
 もやし。
 とは続かなかった。
 そんな力は残っていないみたい。
 瀟洒なチェストの上に蝋燭立を見つけた。乙だな、と思いながら、マッチを擦って火を点けた。ベッド脇の蝋燭は、予想以上に明るい光を放つ。
 神田の顔を照らした光は柔らかい。
 それなのに、神田は苦しそうに眉を寄せていた。
 怒られるかもしれないけれど、構っていられないと焦る。
 伸ばした手で神田の額に触れると、予想以上の熱があった。
「神田、熱が……」
 辺りを見回すけれど、看病に使った形跡のあるものは何ひとつとしてない。ずっとひとりで、苦しんでいたみたいだった。
「神田、部屋を少し、漁りますよ…」
「…勝手にしろ」
 神田は答えてくれたけれど、足は既に回れ右をしていた。
 とにかく漁って、たらいとタオルを見つけ出した。水を張り、その中に持参した氷を入れ、タオルを浸ける。
 神田の傍に戻り額に硬く絞ったタオルを乗せると、彼は小さく吐息を漏らした。
 気持良さそうで、安心した。
 払い除けられるかもしれないと、少し心配していた。


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本日はここまでです。
また来てくださいませ。



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