DグレHug1


Hug



 ラビと作った雪だるまは、次の日に壊されていた。


 吐息が白く凍った。
 気が付けば指先は真っ赤に冷えていて、痛々しい。
 雪の中立ち尽くしたアレンは、何をするでもない。
 ただひたすらに立ち尽くしていた。

 あの日からマナはいなくて、抱きしめてもくれない。
 あの日からクロスと離れて、髪を掻き乱されもしない。
 人の温もりを忘れた体は冷え切って、神に呪われた左腕だけが、燃えるように赤くあり続けた。
 今では右手も赤くなり、調和が取れているとすら言える。
 
 感覚のない右手を、無駄に丈夫な左手で包み込んだ。
 見上げた空は重く暗い。
 これから雪を降らせると、予告しているようだった。
 そんなことをしなくても、もう周りは雪だらけなのに。

 後ろから歩み寄ってくる誰かの気配を感じて、アレンはほんの僅か、視線を上向けた。振り向くことはしなかった。
 誰だろうと思う。
 ラビとリナリーはあり得ない。
 彼らは姿を見つけた途端に声をかけてくるようなタイプだから、違うだろう。
 考えている間に、体が傾いだ。
 拘束された体は窮屈で、バサリと落ちてきた髪は乱暴にアレンの頬を打った。
「…キツイ……」
 ぎゅう、と締め付けるように、腕はアレンの体を包んでいた。
 抵抗はしないが、黙ってもいない。
 抗議の声に、腕は一度だけ締め付けを激しくした。
 その後は力尽きるように拘束が解けていった。
 振り仰いだ先には、冷たい印象の瞳がある。
「神田……」
 緩くアレンの体に触れ続ける腕から逃れ、神田を見つめる。
 何をしたいのか、分からない。
 アレンのかわりに、神田が今度は立ち尽くした。
「何か用ですか、」
「別に」
 即答するわりに瞳は揺らいでいて、アレンは落ち着かない。
 なんとなく嫌な予感がしていた。
「じゃあ…」
 素っ気なく横を通り抜けようとする。
 けれど、その腕は神田に掴まれた。
「あ……」
 呆けた声を漏らし、アレンは掴まれた腕をじっと見つめた。
 ゆっくりと顔を上げ、神田の顔を見る。
 機嫌の悪そうな顔はしていなかった。
 もう一度掴まれた腕を見下ろすと、神田の手が頬を包み込んだ。
 大きな手は耳の後ろまで届き、銀色の髪を梳いた。
「何ですか……離して…」
 寒くて赤らんでいた顔が、今度は別の意味で燃え上がった。
 神田の顔がアレンの顔に近づく。
 鼻が触れ合った。
 拒みたくても、動揺のあまり動けない。
 堅く目を閉じるしかなかった。
「…んー……」
 柔らかに唇をついばまれ、なんともいえない感触に情けないうめきが漏れる。
 口腔に入り込もうとする舌を追い返すことも出来ず、ひたすら硬直していた。
「……っは…ぁ……や…」
 これ以上は耐えられそうになかった。
 恥ずかしいし、神田の考えることが分からなくて恐ろしい。
 首を振り、アレンはようやく逃げることが出来た。
 しかし、唇の拘束から逃れた瞬間に、それまで感じていなかった疼きを覚えた。
 解放されてほっとしているはずなのに。
「……神…田……」
 落ち着かない。
 切なくすらある。
 掴まれていない左手で、アレンは恐る恐る神田のコートをつまんだ。
 どんな反応をするだろうか。
 振り払われるか、それとも跳ね除けられるか。
「…神田……」
 心の奥では優しい仕草を望んでいる。だが、どうしても悪い方にしか考えられなかった。それがアレンの恐れだった。
 神田はしばらく動かなかった。
 じっとしていた。
 そのあとで、ゆっくりとアレンの頭を抱き寄せた。胸に抱え込むように、しっかりと触れる。
 けれど、それでもまだ不安が僅かに残っていた。
 アレンの指先は、神田のコートから離れない。
 その指先を、神田が掴み取った。
 アレン自らの胸に抱え込ませ、有無を言わせない強さで、堅く抱きしめる。
 アレンは目を閉じた。
 胸の高鳴りが収まっていた。
 わけのわからない神田の行動に、今ではすっかり身を委ねている自分が可笑しくすらあるほどにリラックスしている。
「神田、寒いです…」
 甘えたつもりはなかった。
 けれど、神田はとても愛しそうな手つきでアレンの背を撫でた。
 それだけの行為が心地よかった。
 鼻先に神田の長い黒髪が触れる。
 ふわりと香ったのは、石鹸の儚い匂いだった。
 その香りを堪能する間もなく、神田はアレンの手を引いて歩き出した。
 触れ合わない胸や肩が、すっと冷えた。
「神田、どこに行くんですか…」
 見上げた長身は、答えを返してくれない。
 それを寂しいとか、悲しいとか思うわけではない。
 ただ、神田の部屋に近づく己に照れを感じてしまう。
 それだけのことだった。
 扉を開いた神田に促され、部屋の中に一歩踏み込む。
 背後で静かに扉が閉まり、神田が後ろから抱きしめてきた。
 コートが脱がされ、薄いリネンシャツの中に大きな手が入り込んでくる。
 どきりとした。
 抵抗はしない。
 神田はアレンの胸や腹を撫でるだけで、いやらしいことをするわけではなかった。胸を滑る感触や、胸の突起に引っかかる小さな快楽が恍惚を生む。
 すっかり神田の胸に体を預け、全てを委ねていた。
「神田……気持ちいい…」
 刺激するためではない愛撫は睡魔を呼び込む。
 アレンは重い瞼を落としていった。
 とたんに体が横向きに抱えられる。
 うっすらと目を開けると、神田は無表情だった。
 ベッドが近づく。
 割れ物を扱うように白いシーツに身を横たえ、神田はアレンの隣に寝そべった。少しだけ遠慮がちに体を摺り寄せると、がっちりと抱きしめられた。
 再び目を閉じる。
 もう、目は開かなかった。
 神田の長い黒髪が広がるその上に、ほんの僅かアレンの白髪が散る。
 浅い眠りの中、暖かな水面をたゆたう。

 アレンの左手を、神田の左手が掴んでいた。





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 眠いから書いたんです・・・。
 この小説は十日夜の「寝たい」という願望です!!



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