オリジ小説8
オリジ
明がぐずった。
いつまでも入院生活は嫌だと。
そして、定期的に通院することと無理をしないことを条件に、明は退院を渋々許された。しかし、あくまで「渋々」だ。
足を骨折している明は、ひょこひょこと片足で飛び跳ねている。
入院中も、わんぱくな小学生のように落ち着かなかった明だ。
リハビリと称して病室を抜け出すこともあった。
それは回復の証でもあるのだが、関係者としてはたまらない。
いきなり倒れるのではないか、今まで何事もなかった場所にいきなり異常が現れるのではないか。
眼差しが、言葉のように明に降りそそいだ。
しかし当の明は気に留めもしない。
我が道を独走していた。
「…明、松葉杖、使って。」
夕暮れの中、明に付き添って入院中に使っていた荷物や、これから必要な物を運んでいるのは玉響だ。明の母親は住み込みの深夜アルバイトとして働くことになった。しばらく夜は独りだ。
既に出勤している母親に代わり、玉響は車に荷物を運んだ。
退院手続きと入院費の支払いを済ませた直後、休む間もなく走り去った彼女を思うとやるせない。
本当は明の事が心配でならないはずだ。
しかし、彼女には時間が本当にない。
明を育てる傍ら、一軒家に引っ越したいと願う彼女には時間が惜しいのだ。とにかく働いて、金を稼がなくてはならない。
少しでも、長い時間を働きたい。
たとえ今、明が孤独になろうとも、いつか必ずつかめると信じている未来の完成した幸せの中で、明の孤独を拭って生きたい。
それが彼女の望む、カタチだ。
「せんせ、今夜うちに泊まってよ」
「え~?」
「だって……」
玉響の車に片足で駆け寄り、明は小さく呟いた。
シルバーのボディーにもたれて、明は振り向く。
その瞳は不安に揺れていた。
「…独りじゃ、怖いよ…」
入院中は、そうでもなかった。
看護師が巡回している。
だから、異変があっても誰かが気付いてくれる。
しかし、家に帰ればそうはいかない。
容態が急変して倒れても、誰も気付いてはくれない。
「……独りじゃ…」
明はおびえていた。
自らでさえ把握しきれていない、怪我の具合を。
飛び跳ねても全く苦痛はない。
それが逆に怖かった。
今は何事もないが、もしかしたら前触れもなく激痛に襲われるのではないか。
そう思うと、背筋が震えた。
だからといって、母親には頼れない。
昼間正社員で働いていた母親が、更に深夜のアルバイトまで始めたのだ。
迷惑をかけて、足枷になりたくない。
他に頼れる人は玉響しかいないのだ。
「…駄目……?」
漆黒の髪が、夕陽に照らされて淡く光った。
風が髪を揺らし、その度に透過した光が美しく煌く。
左手に松葉杖を握り、両脇に紙袋を抱えたまま、玉響は明の瞳を見つめた。
つやつやとしていて、底なしの透明さを湛えている。
とても、綺麗だった。
こんなに美しい者を、拒めるはずがない。
玉響は目を伏せ、唇の端を持ち上げた。
「じゃあ、お邪魔するよ…」
学校側に知れたら、どうなるだろうか。
想像しながらも、頭の中では別のことを考えている。
まったく、この親子は…と。
実は、退院が決まった昨日、玉響は明の母親に頼まれていた。
『明日から深夜アルバイトで明の傍にいてあげられないんです。だから、先生、お願いします…うちで寝泊りしてもらえませんか……?』
正直、眩暈がした。
それはさすがに…どうだろう。
彼女の口ぶりからすれば、しばらくは下宿のような形になりそうだ。
様々なことを危惧する玉響に、彼女はこうも言った。
『学校側には伏せておきますから…お願いします!!』
あの迫力には気圧された。
何より、明を思う気持の強さに負けた。
しばらく、お世話になりそうだ。
「明、先に家に寄っていいかな?」
「せんせの?」
「しばらく泊まるから、着替えとかね。」
そう言うと、明は顔を真っ赤に染めて笑った。
とても、愛らしい笑顔だった。
痛々しい首のギプスが、白く浮かび上がる。
玉響はそっと、微笑んだ。
住み込むからには、何もしないわけにはいかない。
とりあえず炊事洗濯、掃除にゴミ出しと、出来ることはやるつもりだった。
幸い夏休みも近い。
車から荷物を降ろし、玉響は駐車場からマンションへ入った。
先に部屋へ戻った明が気になる。
過保護であることを自覚するのは、何とも苦い思いがした。
自然と早足になる。
肩に下げた荷物が、きつく食い込んだ。
エレベータを待つのももどかしく、玉響は階段を駆け上がる。
明の待つ階の廊下を小走りで進み、鍵を開けてあるはずのドアノブを掴んだ。
開いたとたんに、明の声がした。
「せんせ、終った?」
心底嬉しそうに、元気な声が届く。
ほっとした。
「終ったよ」
荷物を降ろす玉響の傍らに忠犬よろしく近寄った明は、やはりぴょんぴょんと跳ねていた。首への負担を微塵も考えていないようだ。
「明、松葉杖、使いなさい」
「いや。時間がかかるんだもん。」
「明。」
ギプスで固定しているのをいい事に、明は恐れを失っている。
玉響は明の頬を両手で包み、ぐっと顔を近づけた。
「言うこと聞けない悪い子は、どうしようかなぁ…」
「……う…」
明は怖々と玉響を見上げ、凍てついた。
「…ご、ごめんなさい……」
「よし。」
優しい笑顔が、許してくれる。
明はほっとして、玉響の首にしがみついた。
「ほら明、身体拭こう。ベッドで服脱いで待ってて。」
「はぁい」
元気に返事をした明は、やはり飛び跳ねて自分の部屋へ入っていった。
玉響は額を押さえる。
松葉杖の存在が、まるで忘れられているようだ。
玄関に置いたままの荷物を居間に置き、玉響は熱い湯をタライに汲み、タオルを用意して明の部屋へ向かった。
入院している時からずっと玉響に身体を拭いてもらっていた明は、既に手際よく脱衣を済ませている。
慣れているといってもやはり羞恥があるために、明の頬は少し赤かった。
必要以上に恥ずかしがらせないように、玉響も淡々と身体を拭く。
ベッドに座って言われるままにしている明は、目の前に膝を突く玉響の顔をまじまじと見つめた。視線に気付き、顔を上げないまま玉響は問う。
「…どうかした?」
「え…?」
「じっと見てるからさ…」
「…ん~…せんせって、いい男なのになぁって…。」
一瞬手の動きが止まる。
次いで、怪訝そうな瞳の玉響が見上げてきた。
「どうしたの、急に…」
「だって、思っちゃったんだもん」
自分で言っておきながら、明は頬を深紅に染め上げる。
「せんせ、彼女いないのかなぁって。」
「っ…いないよ!いらないよ、彼女なんて!」
驚愕に目を見開いた玉響の勢いに、明は絶句するしかない。
少しだけ色素の薄い瞳は、どこか寂しげに細められていた。
「……彼女なんて…必要ないよ」
「せんせ…」
「明がいるのに、どうして彼女まで必要なんだ」
呟くような小さな声で言い、玉響は明の頬に触れた。
わずかに伸び上がり、唇を重ねる。
すぐに離れていったが、明は後悔して目を伏せた。
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
思っても、口に出すべきではなった。
浅はかなことをしてしまった。
「ごめんなさい…」
素直に謝る。
玉響は小首を傾げ、明をじっと見つめた。
しばらく、そのまま動かない。
今にも泣き出しそうな表情で、明は俯いたままだ。
玉響はフッと息を吐き出し、明の額を撫でた。
「明、俺のこと好きだろう?」
突然の問いに、明は数瞬遅れて反応した。
「…うん、大好き…」
「じゃあ、『愛してる』に昇格しようか」
にっこりと笑った玉響は、タオルをタライの中に戻した。
明の隣に座り、顔を覗き込んで返事を待っている。
『昇格』の意味が分かっていない明は、戸惑うしかない。
とりあえず、無防備にも頷いた。
「じゃあ、おいで、明」
ベッドに深く座りなおした玉響は、明に自分の膝を指した。
「腰、跨いで」
「え…でも…」
さすがに、たじろぐ。
裸のまま誰かの膝に座るのは、かなり抵抗があった。
明は紅潮したままの頬を片手で触り、玉響の顔を見上げる。
「嫌なの、明は?」
嫌ではない。
だが…裸であるということだけが、どうにも耐え難い。
「…わかった」
しかし、このまま黙っているのは嫌だった。
沈黙の間に玉響の心が離れていくのではないかと思うと、辛くなる。
明は恥じらいを禁じえないまま、玉響の腰を跨いだ。
そろそろと腰を落とし、玉響のはいているジーンズの生地に尻が触れる。
「明、首にしがみついて」
「ん…」
深く頷けない明は浅く頷き、玉響の首に両腕をまわした。
玉響の温もりが、触れた腕や胸にじんわりと広がる。
明の目が、心地良さそうに細められた。
「気持ちよく、してあげる…」
そう言った玉響の手が、明の肩に触れた。
愛しげに肩を撫で、怪我を避けて腕や脇腹を撫でていく。
その手が、明の胸に触れた。
「…せん…せ…」
ふわりと浮き上がるような心地よさの中に、追い討ちをかける甘さが混じる。
明は迷うことなく、玉響の唇に自分のそれを重ねた。
そうしながら、玉響は明の乳首を刺激する。
優しく、甘く、溶かすように。
時には指の腹で押し潰し、または爪でつまんだりもした。
その度に明は甘い声を漏らす。
「んっ…んぅ……は…ぁ…」
ぴちゃりと音を立てて唇が離れる。
ぐったりと玉響の胸にもたれ、明は悩ましく息を吐く。
ゆっくりとなだらかな腹に触れ、玉響は明の髪を撫でた。
後頭部には傷がある。うかつには触れられない。
側頭部や、額。
そういったところに、玉響は優しく触れた。
「せんせ…気持いい……」
力の抜け切った声で、明は歌うように呟く。
「そう?」
微笑みながら、明の肩越しに見た背には、大きな傷跡が残っていた。
まるで巨大なムカデが這っているようだ。
無意識のうちに、眉を寄せてしまう。
痛々しい傷跡。
明は何もしていないというのに。
なんと酷い仕打ち。
頭の中で、何度も何度も、神を恨んだ。
存在を信じていたわけではない。ただ、この時ばかりは神を恨むしかなかった。他に、恨む相手を絞り込めなかった。
明を愛撫する手に、愛しさが強くこもる。
下腹で小さく存在を主張している明を、玉響はそっと包んだ。
明の身体が、ピクリと反応する。
「……っ…」
何も、言えない。
恥ずかしすぎて、言葉が出てこない。
明は玉響にしがみつき、唇を小さく噛んだ。
明の中心を掴んでいる玉響は、親指で裏筋を撫でる。
「んっ…」
ダイレクトに触れられ、明は息を呑んだ。
一瞬で、鼓動が高鳴る。
「ぁっ…あ…」
桃色に染まった花芯は、玉響により強い快楽をねだっている。
まだ中途半端な硬さで、あどけない感じだ。
玉響はねだる花芯に、望むままを与えた。
「んあっ…や、ぁっ……っ!」
茎を上下に扱き、くびれの部分を親指でなぞる。
すると、あっと言う間にそこは蜜を溢れさせた。
わざと音を立てて扱くと、明はむずかる。
「やだっやめて…っ」
「どうして…?」
「いや…いやぁっ……恥ずか…し……ああっ…!」
「恥ずかしくなんてないだろ、ん?」
玉響は意地悪く、囁いた。
優しい悪魔の囁きは、明の脳をじんと痺れさせた。
明が着実に高みへ押し上げられている間に、玉響の指先は新たな動きを見せる。先端の、蜜の溢れる場所へ親指が動いていた。
「あ…ぁあ……」
快楽の波に翻弄されている明は、その事に気付いていない。
その間に、玉響の親指はクッ、と折れ曲がった。
「あぁっ!!」
親指の先が割れ目に入り込み、痛みを伴うほどの悦びを明に与える。
明は口の端から銀糸を零した。
「ふ…ぁ…あっ……んんっ…」
「明、気持いいんだね…?」
柔らかな仕草で、玉響は明の頬を撫でる。
明はただ、大人しく目を細めた。
その目が、少しずつ閉じていく。
「明…?」
「……ぁ…」
ぱたりと、首にかかっていた明の腕が落ちた。
いぶかしむ玉響を他所に、明は声も上げなくなる。
「……。」
眠ってしまったようだ。
くぅくぅと、愛らしい寝息が聞こえる。
この状態でよく眠れるものだと、玉響は苦笑するしかない。
しかし、玉響の瞳は優しく明を見つめ続けた。
小さな明。
玉響にとっては、可哀想な被害者でしかなかったというのに、知れば知るほど明は魅力的で、玉響の心を縛っていく。
さらさらの髪も、華奢な指先も、憂いを帯びた吐息すら、独占したくなる。
玉響は明の身体を、ゆっくりと横たえた。
しがみつこうとして、無意識のうちに伸ばされた手をとる。
頼りないほど細い手の甲にキスを落とし、玉響は立ち上がった。
名残の体温が、しっかりと胸や膝に残る。
それすらも、明自身であるように。
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よ~し…ちょっとばかり疲れてきたぞ~…。
途中で中断しないように頑張ります。
では。
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