オリジ小説3
オリジ
その日はよく晴れていた。
明は教室に一度入り、その日の授業を確認して階下へ降りた。
足は当然、玉響のいる保健室へと向かっている。
その表情は幸せそうに緩められ、歩調も急いて速くなっている。
ようやく保健室へ辿り着くころには、ほぼ駆け足になっていた。
「せんせ、おはよ!」
ひょこりと顔を出した明に、玉響は驚いた様子で顔を上げた。それはすぐに笑みへと変わる。
「おはよう、早いね。」
「うん。」
「昨夜はご馳走様。今度は俺が食事に誘わせてもらうよ。」
「え…いいよ、そんな…ありがと」
くすりと笑い、明は保健室のドアを閉めた。バッグの中から書類を出している玉響の背後に回り、抱きつこうとする。しかし、一瞬反応の早かった玉響に抱き寄せられ、唇を奪われてしまった。
「んっ…」
こんな所で、と心臓が高鳴る。
誰かに見られたら、大問題だ。
明は身を捩り、玉響の広い胸を両手で突っぱねようと試みた。しかし、細腰をしっかりと抱き、後頭部を押さえつけている玉響からは簡単に逃げられない。そのうえ、昨日より濃密に、舌まで挿入してきた。
明は目の裏が真っ白になるのを感じた。
あまりにも恥ずかしすぎる。大人のキスなど経験したことがない上に、恋愛自体に縁遠かった明はあっと言う間に参ってしまった。
腰が抜け、ふらふらと座り込みそうになる。
「んぅ…ふ……っ」
ぴちゃりといやらしい音を立て、玉響が離れる。
明は潤んだ瞳で彼を見上げ、いつの間にか掴んでいた白衣をきつく握りこんだ。そうでもしないと、本当に座り込みそうだ。
「淡白なんだ、明は」
「あ…や、だぁ……」
からかうように耳元で囁かれるだけで、明はぞくりと背を震わせた。
「耳、弱いの?」
「ちが…違うっ……きゃ、ぁ…っ」
悪戯な玉響の指は、弱点と知りながら明の耳に触れた。
びくりと肩を竦めた明は、玉響の胸にしがみつく。
腰が熱かった。
今まで明の感じた事のない熱が、腰の辺りに広がっている。
その場所のあまりのはしたなさに、明は固く目を閉じた。
何故、こんな場所が甘く疼くのだろう。
あまりにも淫ら過ぎる。
「せんせ…やめて……」
「どうして…?」
「変になっちゃう…んん……」
明は性的に淡白だった。
女性に興味が全くなく、性描写のある本が目の前にあったとしても、邪魔だと除けてしまうほどだ。
それ以前の問題、明は恋人や友達という概念ではなく、傍にいてくれることを前提で関係を求めていた。そんな明が性に執着するわけもない。お互い傍にいることができ、安心してようやく恋人と言う関係を求めるのだ。
そして、それも明にとっては別の意味を示す。
大事な人を傍にとどめるための、鎖と化す。
恋人同士という関係は、相手の性別を問わず、とにかく拘束する力を持っている。それを知っている明は、相手を捕らえたがるのだ。それと同時に、きちんと恋愛感情も育まれているのだから、振られたときのショックは大きい。
「せんせぇ…」
その結果が、生徒会長だった。
結局振られてしまったが、明は必死だった。
「せんせ、せんせっ…好き……」
破滅へ導く結果となろうとも、確実に傍にいてくれる人に巡り会いたい。
「明…?」
心配げな玉響の声が、耳元で響く。
明は小さな唇を噛み締め、額を胸に押し当てた。
「せんせ…傍に……いてくれる…?」
顔を見ていられない。
再び振られたら、どうなってしまうか分からない。
ただでも人間不信に陥りそうだというのに、追い討ちをかけられるのは嫌だ。
けれど、明はそんな内心をどうにかできない。
確実で安全な方法よりも、より濃密な関係を求めてしまう。
「明……」
「せんせ…お願い……」
独りはいやだ。
幸せな時間を、長く長く共有したい。
明の瞳から、透明な涙が滑り落ちた。
白衣が汚れることを厭い、明は身を引こうとする。
肉の薄い二の腕を掴み、玉響は可憐な少年を抱き寄せた。息を呑む気配が伝わるが、逃げようとはしていない。
孤独な少年だ。
それなのに、効率の悪い手段を選んでまで、自らを癒してくれる最良のパートナーを探している。
いじらしいことだ。
そのいじらしさが、チャームポイントでもある。
「明、心配性だね?」
「…そんなことより…ねぇ…」
返事を急かす声は震えていた。
突き放される恐怖を一度知っている身体は、硬く緊張している。
「…じゃ、お付き合いしましょう…よろしく、明」
「せんせ…!」
「その代わり、内緒で…禁断の恋、だからね」
片目を閉じて見せた玉響に、明は呆けた表情で口元を淡く緩めた。そして、次の瞬間床にぺたりと座り込んだ。
「明!?」
「ご、ごめんなさい…ほっとしたら…」
何も心配することないというのに。
玉響は小さく溜息を零した。
既にキスまで交わしている関係で、交際を避ける理由はないはずだ。
しかし、明はそれを危惧する。
そんな明を、玉響は愛しげに包み込んだ。
「心配しないでいい…ほら、立てる?」
「う…うん」
玉響の両腕が、くずおれた身体を抱き起こした。
明の頬は真っ赤で、だがとても嬉しそうにほころんでいる。
その表情を見るだけで、玉響の心にもふわりとしたものが広がった。
「明、大丈夫だよ。ずっと傍にいるから…」
「…せんせ」
柔らかく抱き締めた身体が震えた。
額や頬を押し付けてくる。
「ずっと一緒…?」
「そ、ずっと一緒。」
「…ん」
全てが小さい明の中で、唯一と言って良いほど大きな瞳が潤む。
喜びに艶を増した明の瞳はどこまでも無垢で、底なしの清さを含んでいた。
明の肩を抱き、玉響はベッドへ誘う。
きょとんとした表情の明は、誘われるまま、ベッドへ足を運んだ。
「せんせ…僕……具合、悪くないよ…大丈夫だよ?」
「ん、俺は具合悪いかもしれない」
そう言って、明の身体をベッドに押し倒した。
倒された姿勢のまま動かない明をよそに、玉響は保健室の鍵を閉め、ベッドをぐるりと覆う天蓋をも閉めてしまった。
完全な密室で、ふたりきりだ。
「…明、少し、看病して…」
掠れた色っぽい声で言い、玉響は明の胸に顔を埋めた。
「大丈夫?」
「駄目かも…」
ブレザーのボタンを外し、ワイシャツのボタンまで外した玉響の唇は、迷いもなく明の胸に触れた。
「ぁ…」
細く漏れた声に満足し、玉響は胸の飾りに歯を立てる。
とたんに細い腰がびくりと跳ね、戸惑いを見せた。
「せんせ、せんせっ…何、どうして…」
「…明…」
「…せんせ…」
具合が悪いのではないのか。
単純な明は玉響の言葉を信じきっていた。
しかし、どうもおかしい。
さすがに気付いた明は、指先で玉響の肩を押し返した。
「ねえ、本当に具合悪い…?」
「悪いよ。温もりが欲しい病っていうんだ。」
「…嘘つき、もう…っ」
本気で心配していただけに、脱力した。
「明、じっとして」
細い肩を抱き、逃げられないようにして胸を舐める。
時折強く吸い上げ、赤い花弁を散らした。
それだけで、たったそれだけで明は感じきってしまう。
瞳は涙で潤い、色気のある朱が目元を縁取る。息は弾み、四肢は悩ましくシーツを乱した。
「せん…せぇ……ぁ、あ……やぁ…ん……」
「明…下は、いい?」
「…んっ…下…?」
『下』というのが一体何を示しているのか理解していない明は問う。
玉響は前触れもなく手を伸ばし、明の両足の間を押さえた。その瞬間、甘く熟した果実から悲鳴が上がった。
「――やあぁぁぁっ!!」
「明、声大きいよ…」
腰は大きく浮き上がり、涙の量がぐっと増えた。
慌てて手を離した玉響を呆然と見つめ、信じられないといった表情で唇を噛み締めている。
「…良すぎるみたいだね」
唇の両端を持ち上げ、玉響は明の涙を拭う。
一方、明はそれどころではなかった。
「……」
顔を玉響から逸らし、眉根をきつく寄せる。
初めての快楽だった。
あんな場所を触れられたことがなかったし、自らでさえ触れたことがなかった。その上、明は胸に対する愛撫だけで十分すぎるほどに高められていた。
「明、どうした…?」
さすがに、変化に気付いた玉響が心配して声をかける。
明の涙が止まらない。
酷い羞恥に、耐え切れないようだ。
むごいことをしてしまったと、玉響は申し訳ない思いで明の頬に触れた。
「明…ごめん、やりすぎたよ」
玉響が謝るが、明は本当に、それどころではなかった。
だが、このままではどうしようもない。
明は濡れた目で玉響を見上げ、首にしっかりとしがみついて唇を耳元へ寄せた。そして、小さな声で伝える。
自らの犯してしまった罪を。
「…何だって…?」
「だからっ…」
この歳になって、こんなこと。
明の胸が黒く塗りつぶされていく。
玉響に暴露じみた告白をしながら、涙が止まらなかった。
小さな子供ではあるまいし。
何故、こんなことに。
いくら、触れられたことにショックを受けたとしても…。
そんなことばかりで頭がいっぱいの明に、玉響は小さく笑みを見せた。
「明、ちょっと失礼するよ」
「え…や、やだぁっ!!」
抵抗する明を押さえつけ、玉響は明のスラックスに、その下の下着の中に、手を入れた。
もう、明の涙も止まらない。
顔をぐしゃぐしゃにして、どうにかして起き上がろうと試みる。
それが無理だと分かると、玉響の胸をがむしゃらに殴りつけた。
何て恥ずかしい場所に触れるのだろう。
そう思うのに、明のそこは甘く熱をはらむ。
「や、だ…あ、あぁっ…」
「明、明…お漏らしなんてしてないよ、明。」
「…え?」
「知らないの?射精って言うんだよ」
「……何、それ…」
玉響に足の間を押さえつけられ、明は達してしまっていた。
しかし、明はその現象を失禁と勘違いしていた。
自らのものを慰めた経験も、夢精の経験もなかった明はそのことに全く気付かず、ただ下着の濡れた感触と、溜まっていたものを吐き出したという開放感で、漏らしてしまったのだと早とちりしていた。
「…男はみんな、こうなるものだよ」
「…ほんとに?」
「本当だよ。だから、もう泣かないの。」
下着から引き抜いた玉響の手には、白濁としたものがしがみついていた。
「気持ちよかったんだね、明…そうだろう?」
「…うん…」
「もっと、触ってあげる…」
「い、いやっ」
「どうして?」
「…HR…」
あと5分ほどで、HRの時間だ。
明は時計を見上げ、舌打ちをする玉響の下から逃げ出した。
乱れた制服を整え、荒い息を落ち着かせる。
ずっと知る事のなかった園を、覗いてしまったような高揚感が溢れていた。心臓はいつまでも強く脈打ち、明を不安にすらさせる。
「……お昼…また来てもいい?」
明は問う。
玉響は眉を上げ、どうぞ、と呟いた。
どれもこれも、美しく整った玉響の笑みに、明は頬を染め上げた。
「じゃあ、行ってきます…」
「行ってらっしゃい。頑張って勉強しておいで」
「うん!」
カーテンを開けてくれた玉響に微笑み返し、明は走って保健室を飛び出した。既に、予鈴がなっている。
しかし、明はそれだけの理由で走ったわけではなかった。
「……」
胸が熱かった。
きつく締め付けられるようだ。
玉響の傍にいると、どうしようもなく身体が火照ってしまう。
もっと淫らなことをして欲しいと願ってしまった。
性的なものに対して何も知識がないくせに、それでも玉響に全てをさらって欲しいと願ってしまった。
明は唇を噛み締める。
走る速度を落とし、ゆっくりと歩き出した。
不自然に付いたワイシャツのしわを伸ばして、玉響の触れた胸を撫で下ろす。
甘く、痺れが広がった。
++++++++++++++++++++++++++++++
関係の進展、という感じですか。
私、保健医の都合なんて何も知らないんですよね~…。
生徒に対して何をしてはいけない、とか。
ただ、家まで送ってもらったり、一緒に外食したりした経験はあるので、そういうのは良いんだろうと思います。
予備知識がないと書きにくいですね。
では、続編にて。
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