オリジ小説11


オリジ


 あれからどれほど経っただろうか。
 学校での出来事が、すべて『思い出』になっていた。
 過去のことに、なったのだ。

 高校を卒業してまだ1年も経たない。
 玉響と出会い、本当の愛を知った夏の日。
 あの日と同じ夏の日に、明は夏の風を感じていた。
 果てしない緑の野原に、明ははしゃいでいる。
 その後姿を見守るのは、柔らかく微笑む玉響だった。
「匂いが全然違うね。」
 嬉しそうに振り向いた明は、玉響に駆け寄る。
「そうだね、日本と違って、くすんでない感じだ」
 抱きついてきた明を腕の中に抱き締めた玉響は、華奢な首筋に顔を埋める。
 ふたりのいる場所。
 そこは日本ではない。
 オランダの、のどかな大自然の中にいる。
 玉響から離れた明は、再び野原を走り出した。
 日本にはない植物を見つけては座り込み、玉響に示す。
「玉響、見て!」
 呼び方も、『せんせ』から『玉響』に変わっていた。
 それはふたりの距離が近付いた証でもあった。
「へぇ、綺麗だね。」
「何ていう花なのかなぁ…」
「さあね。でも、明によく似合うよ」
 明の傍らに腰を降ろし、玉響は長い指で花を摘み上げた。
 それを、明の髪に挿してやる。
 薄青色の可憐な花。
 明は頬を染め、玉響を見上げた。
「ありがと…」
「どういたしまして…でも明。俺は明にもっと似合うものを持ってるよ」
 顔が近付く。
 唇が触れあい、すぐに離れた。
 愛らしく小首を傾げた明は玉響をじっと見つめている。
「もっと似合うもの…?」
「そう。」
 晴天の下、玉響は明に大事なものを渡そうとしていた。
 これからも、ずっと一緒だ。
 それを伝える、大切なもの。
「目を閉じて…」
 素直に、言われるがままに目を閉じる。
 明は少しだけ、もじもじと落ち着かない。
 それはいつになく真剣な玉響の眼差しに、ドキリとしたせいだ。
 太陽の光が少しだけ、瞼を透過する。
 そんな中で、明の手が持ち上がった。
 玉響の手の温もりを感じて、ほっとする。
 その指に、何かが嵌っていく。
 左手の、薬指に。
「…いいよ。目を開けて。」
「……あ…」
 華奢なリングに、小粒のダイヤモンド。
 清楚な感じのする、婚約指輪だった。
「…やっと言えるよ、明……」
 ずっと、言えなかった。
 いつでも言えたのに、覚悟もできていたのに。
 『学校』という足枷に囚われていた。
 けれど、ここはもう学校ではない。
 頬を染め、信じあえる明の存在だけを、思う存分に愛することができる。
 ここは自由の国だ。
「結婚しよう、明。」
「…玉響…」
 愛らしい瞳に涙が浮かぶ。
 指輪と玉響とを交互に見つめた明は、嬉しそうな満面の笑みで頷いた。
「…うん。結婚しよ…。」
 新しい生活が始まる。
 このオランダという国で。
 誰にも邪魔はさせない。
 これはふたりの、物語なのだから。

 それから、ふたりはオランダで小さな病院を開いた。
 語学に精通する玉響は滞りなく、医者として働いている。
 それを支えるのは、誰よりも愛されている明だ。
 働いている玉響にお茶を出したり、愛妻弁当を作ったり。
 ふたりの関係に、亀裂など入りそうにない。

 評判の、おしどり夫婦だ。

++++++++++++++++++++++++++++
終りました~。
ここまでお付き合いくださった方々に感謝です。
明はちょっと…苛めすぎたかなぁ、と思っています。
『小説なのに、大袈裟だよ~。』
と、思う方もいらっしゃるでしょうけど…でもね、やっぱりこういうのは感情移入できなきゃ書けないんです。
やっぱり、やりすぎたと思う分には、ごめんねってことで、ご褒美あげてます。
ご褒美になってるかどうかは謎ですがまあ、明と玉響の永遠の幸せという形で。
それがこの作品のテーマでもありますし、ね。
では、これにて。
ありがとうございました。

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